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「一昨日もB29が飛んできて、この桜を撃ちやがったんだ」
「傷……、あ……桜の、傷……」
傷と聞いて、少年の負っている傷かと思った。
けれど、少年が涙を流すのは自分の怪我のことではなかった。
この桜が空爆を受けたことに対して流した涙だったのだ。
それほどまでに、この桜は大事なもので守りたいものなのか。
願いをかなえ、時には人を慰め守ってくれるという桜……。
「オレ、空爆の時は必ずここに来ることにしてるんだ」
「そうなんだね」
「……できたらこの桜を連れて逃げたいんだけど無理だからな」
真っ赤に泣いた瞳を、なおも涙であふれさせて笑う少年。
今度は腕で涙を拭うと「じゃあな、お前もさっさと帰れよ!」
と言い、片手に松葉杖とも言えない木片をついて去っていく。
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