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少年の背中は、破れた服を風になびかせながら遠ざかっていく。
大怪我をおっていながらも、この桜の側に来ているという。
少年にとってこの桜の意味するものは、何なのか……。
「……この桜を撃ちやがったんだ……」
あの言葉が少女の頭の中をリフレインする。
あの少年がそうしていたように、傷跡にそって触れてみる。
……時には人をなぐさめ、人を守る
小さな頃から教えられてきた。
ここにこうして“生きて”いるだけで、
人の心を引き寄せ、守りたいと思わせる。
そして、桜もまたあの少年を守っている……?
花をつけていなくても、葉桜でもなくても、枯れていても。
木陰を作り、守っている……。
桜と、あの少年のように沢山の人達とひとつの絆を作り出している。
春になれば綺麗な薄桃色に花を咲かせて。
ふわあっと、少女の想像の中があたたかな木漏れ日に揺れる桜が見えた。
「どうかあの少年がもう一度綺麗な桜を見られますように」
願いをかけて目を閉じた。
途端に、少女の目からは大粒の涙が根本へと落ちていく。
……ポタ、ポタ……
“桜”は、咲くであろう桜を待つ人の思いを受け止め、
昔からここに“生きて”来たんだ。
綺麗な花を見て微笑む人。
悲しみをいだいて涙する人。
まるで神様のようだと、少女は思った。
すると、鼓動が跳ねてくらりと意識が遠のく。
桜に引っ張られて、桜の中へ入っていくよう。
「前にもこんなことがあった」
何かを知ることができた今、少女は自然とその現象に身を任せる。
ふわりと空気が流れて、閉じていた瞼をゆっくりと開ける。
周りの景色は、少女が知っているものに戻っている。
辺りには、桜の花の香りが満ちていた。
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