序章

2/2
前へ
/30ページ
次へ
 それは巨人としか表現できない何かだった。  手と、足と、頭があり、それらをつなぐ胴体がある。  ただ、頭には顔と呼べるものがなく、目も耳も口もなかった。  身体の大きさは20メートル程度。複数体が発見されており、多少の個体差があることが確認されている。  それは、宇宙の果てからやってきた。  21世紀もそろそろ半ばという時期に、まったく何の予兆もなく現れ、地球の各地に降り立った。  確認されているだけで12体。突然空から降ってきたので、宇宙から来たものと推測されているが、飛んできた方向を含め、出身地は不明だった。  それは、人類の知識を遥かに超える存在だった。  全身が、白い、正体不明の物質で構成されている。なめらかで固く、ダイヤモンドの刃で切りつけても傷ひとつつかない。大きさの割には軽く、アルミニウム程度の比重しかなかった。  地球外生命体そのものなのか、それとも、地球外生命体が作り出した機械なのか、それも不明だった。  それは、眠り続けている。  人類はこの闖入者に対し、何度もコミュニケーションを試みた。最初は音で、次に光で、その次は電波、超音波、思いつく限りの手段で人類は語りかけたが、何の反応も示さなかった。  まるで、胎児のように、手足を丸めた姿勢のまま、指一本さえも動かさなかった。  すべての巨人たちは、都市や街など、人間の居住域に近い場所に降臨したが、一方で、ただ1つの建物も破壊することなく、人の生活を脅かさなかった。そのため、何らかの知性があることが推測されたが、もちろん、確証には至らなかった。  そうして人々は、それを無視するようになった。  もしこれが地球外生命体の侵略兵器であれば、人類には打つ手がないだろう。だが、眠り続けるだけの存在に何ができる?  巨人の周囲には柵が設けられ、人々はその横をただ通り過ぎ、日常を送った。  日本の関東にある地方都市、白羽市の片隅に、1体の眠れる巨人がいた。  街には2人の高校生がいた。  物語は、ここから始まる。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加