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「けーちゃんは悪い人じゃないよ。ちょっと喧嘩っ早いけど、優しいし」
「ほんとぉにぃ?」
「ほんとよぉ」
雪子は懐疑の表情を浮かべる。雪子のテンションには、まゆみは翻弄されてばかりだった。そのとき背後から
「おい!」
野太い男の声。雪子は短い悲鳴を上げた。
学生服の男が後ろに立っていた。鋭い目つきと、への字に曲げた口。背が190cm近くあることもあって、威圧感のある風貌をしている。首についた学年章は、彼が白羽私立高校の二年生であることを示していた。
「あ、圭一……クン」
雪子の眼鏡がずり落ちた。
「やっほー、けーちゃん」
まゆみは快活に笑う。
「まゆみ、行くんだろ?」
それだけいうと、圭一は返事も待たずに歩き出す。
「うん!」まゆみは小走りに駆け出した。「じゃあね! 雪子!」
「えっと、じゃあね、まゆみ……」
雪子は眼鏡を直すと、力なく手を振った。
「けーちゃん、ひょっとして待ってたの?」
「いや」
圭一は振り返りもしない。傷だらけの学生カバンを肩越しに持ち、かったるそうに歩く。まゆみは圭一との距離が離れるたびに小走りで追いつく。
ふと、圭一の?の、真新しい生傷に、まゆみは目を止めた。
「……ねえ、またどこかのガッコの人と喧嘩したの?」
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