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酷いこと、したい。
稲生一史を、抱いた。
酔った勢いではない。性的に溜まっていたわけでもない。互いに男であることも、恐らく、一史に恋愛感情がないことも判っていた。それも、抱いた、なんて表現できるほど優しい行為ではなかった。
ただ、開いた扉の向こうで背中が白く、浮いて見えていた。黒い部屋の中で、その背中がくねりながら着衣を脱いだ。
それを見ながら欲情した。
無防備な背中は、晴人がいることに気がついていなかったのかもしれない。
そういえば、帰宅の挨拶をしただろうか。
扉を開いたときに一史はお帰りなさいと声を返しただろうか。覚えてない。覚えてないが、目の前の光景が焼き付いて、胸に灯をともす。
一史の体が目の前でむき出しになってる。寝巻き替わりのスウェットを頭から脱いでいく。滑らかな背中が悶えるように揺れる。
正座して座った腰の横には、黒い大振りな数珠が連なったような玩具。それもひとつではない。グロテスクな形をした種々のモノが無造作に転がり、ローションボトルは半分ほどに減っている。
よくこんなものを自分に隠しておけるものだと思った。
いくら帰りが遅いとは言えど、同じ生活空間を共有していて、晴人の目が届かない場所などよほど探さなければない。
いや、そんな場所は探しても無い。
だから、晴人は押し入れに隠されたネットショップの箱に一史の性癖を見つけたし、それが確実に増え(あるいは使用の証拠のように減っ)ていたのに気がついてた。
それでも、軽蔑より先に興奮を覚えたのは。一史の傾倒した性癖にいっそ付き合わせてくれたらいいと思うのは。
「一史」
びくと、跳ねるその背中に噛みつきたかったからだ。
「手伝ってやろうか」
振り返って赤面して青ざめた顔を涙と鼻水まみれにしたいからだ。
秘密を暴くために容赦なく部屋に入り込んで、自ら脱衣してすでに上裸だった体を布団の上に押し倒す。急なことに驚いたのか抵抗はなかった。ただ、唖然とした目で見上げてくる。瞠目してはっきりとした瞳の、光彩を縁取る黒が明瞭に見える。
こくと小さく唾液を飲んだのが幼くて煽られた。
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