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その言葉の真意をつかめないままで、マサキは職員に促されたらしく、また連絡するとだけ残して保留音に変わった。言われた言葉を反芻しながら、一史は首をかしいでいた。
「どうした」
「電話、保留になりました。」
携帯を差し出しながら首を傾ぐ。晴人は携帯を受け取り、耳に当てて暫し黙った。
「あ、周防です。はい、ちゃんと話せたみたいで。」
パソコンの画面を見たままで、晴人は事務的な声を出す。その隣で膝を抱え直し、煙草に口を付けた。フィルター付近までちびた煙草は、焦げ臭い匂いがした。
「マサキ、なんだって?」
通話を終えた晴人が、殆ど無くなった煙草を灰皿に押し付ける。同じ動きで煙草を揉み消して、また、膝を抱える。マサキの言葉の意味を相変わらず探して、思い付かなくて、膝に頬を付ける。
「礼を、言われました。」
「礼?」
「はい。マナトを養子にしないでくれて、ありがとうって。」
「ふぅん」
新しい煙草を抜き出して、晴人は火を付ける。ふんわりと煙が漂う。飯を食うか問われ、スパゲティが食いたいと答えた。立ち上がる瞬間に、晴人の掌が頭を包んだ。
「マナトは、あいつにとってアンカーだったからな」
繋ぎ止めるもの。その場に。
それは、自由を奪うもので、感謝されるものじゃないはずだ。
一史はマサキに事実を伝えて、そのアンカーの引き上げを拒否した。マサキはどこにも行けない。マナトのそばから、離れられない。
「マナトがいなくなったら、生きる意味だってなくなる」
台所からの声に耳がそばだつ。アンカーがなければ、どこにでも行けるんじゃない。アンカーがなければそこに留まることもできないんだ。
耳の奥で水が鳴った気がした。
沈んでいく、白い乗用車と、運転席の影を眼間に見た。自分は、アンカーには、なれなかったのか。
「おい。」
沈黙に声を掛けられて顔をあげる。晴人が、見下ろしている。鼻の頭に汗をかいていた。
「はい。」
「お前、服、着ろ」
過去に引き摺られていた耳に歯がぶつかる。服を着ろといいながら晴人の指は既に一史の胸の尖りにかかっている。
「そんな格好で憂い顔なんてされた日にゃ、滅茶苦茶にして俺しか考えられなくしたくなる」
どんな理屈だと思いながらじっとその眼を見つめた。
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