epilogue

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 その眼の中に渇望がある。  つまりは貪欲が顔を出しているのだ。一史が自分の知らない場所を持っていることが気に入らない。体は総て、余すことなく、暴いて、触れて曝け出させた。だが、心まで丸裸にするには時間がかかる。  触れられたくない場所ならばなおさらで、慎重にならざるを得ない分、渇望は度を増す。 「ッア、」  乳首から走る疼痛に一史が腰を引く。逃げを打つ体を、他方の手で引き寄せると、本格的に焦ったらしい腕が、一史同様裸のままの胸を押し返した。 「飯、作んじゃなかったんですか」 「後でいい」  話せないなら、話さないでいい。それを抱えたままの一史を丸ごと受け入れる。多分、こいつがいなければとうに捨てていた命だ。こいつの望むように生きたところで、不自由はない。こいつを失ったら生きられない命だ。  そう思いながら、まだ、知りたがる自分を上手く飼い馴らせずにいるのも事実だ。 「汗がっ」 「そんなのはお互い様だ」 「ぅあっ!」  膨れた右の尖りを齧る。左側より肥大したそこは少し悪戯しただけで血を集めたように赤く腫れる。 「ンンンっ……」  唇をかみ締めて声を堪える。それが愛おしい。愛おしい半面で、唇を解いてやりたい。あられもない嬌声を昼の只中から響かせたい。ノートパソコンを閉じて、胸元から顔を上げる。かちりと合った視線。吐息が濡れる。額が、湿る。  キスがしたい。真実も嬌声も上げない唇なら、その言葉ごと、声ごと覆って飲み込んでしまいたい。本当は、その言えない過去も、真実も、すべて、飲み込んでしまいたい。  ふた月経ったところで変わらない。渇望は堪えないし、欲求は次々に湧き上がる。 「晴人、さん。」  重なる瞬間の唇が、躊躇いがちに名前を呼ぶ。静止の言葉なら聞くまいと思いながら、初めから黙殺するつもりで、顔を近づける。 「晴人さん、」  二度目に呼ばれて、早くその唇をふさぎたくなった。胸の中に湧き上がる黒い不吉を、感じずに居られなかった。 「晴人さんなら、書きますか」  吐息すら絡み合いそうな距離感で呟かれた言葉に、眉をひそめる。
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