epilogue

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 それは、漸く執着を捨てたつもりの晴人には酷な言葉だった。  ゆっくりと上体を離しながら、乱暴に一史を黙らせたくなる。その首を掴んで唇をふさいで、言葉も紡げないほどに、蹂躙して。 「晴人さんなら、記事にしますか」 「何を。」  判っていながら、はぐらかした答えは自分でもどうしようもないほどに棘まみれだった。 「マサキのことです。」  視線を外しながらどう答えたものかと考える。視線を外してもなお、一史の視線が、瞼に刺さる。 「さあ、どうだろうな」  濁したままで、一史の胸に唇を寄せる。鳩尾の上、心臓のやや右側に吸い付いて痕を残す。ひくと震えた腰を抱き寄せて、下着1枚のウェストから指を滑らせる。汗ばんだ肌が掌に吸い付く。 「んんっ」  尾骨から双丘の狭間に指を滑らせる。深く浅く擽って、ひくつく窄まりは初めて抱いたときより縁を膨らませ、すぐに開閉するようになった。最近縦割れして来た気がすると事後の入浴で示されてつい欲情した。明らかに女のものとは違う。しかし、排泄のためだけでなく、受け入れる器官としても既に一史のそこは適応し始めていた。 「真面目な、はなし、」  抗議する手を胸で押さえつけて唇を塞ぐ。それを問うて何になるんだと腹の底には得体の知れない澱が募る。その一番下に巣食っているどうしようもない自分の欲求から、眼を背ける。人間なんてのは強欲だ。いや、やっぱり晴人が強欲なのだ。ひとつ手に入れかけた現状で更に失ったものに手を伸ばしたがっている。  真実を突き止め白日に曝し、事実を人の目に知らしめたいと思うのは多分、特殊なことなのだろう。隠されたものがあれば暴きたくなり、蔑ろにされた真実があるなら問題化させなくてはならないと思う。 「ヒァ、」  膨れた粘膜を爪弾くと小さく甘い声が上がる。非難がましい目を見ない振りして首筋に噛みつく。 「お前なら、書くか」  黙り込んだ現役記者に、お前なら書かないだろうと確信する。正しい判断などない。事実を記事にすると言うことはその裏で謀らずも暴かれる誰かの個がある。  それはマサキであり、マナトであり、その祖母でもある。同情と好奇は同等に注がれる。それを何度も経験してきた、見てきた一史なら、記事に起こすと言う選択は、しない。 「難しいこと、考えんな。」  呟きながら耳朶(じだ)を噛む。
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