epilogue

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 荒くなる吐息に、(した)る汗が胸を打つ。腰に絡んだ足が震える。快楽に弱い一史はもう何も考えられないようで、ただ、晴人に縋り付く。肉がうねり、結腸の奥が先端を締め付ける。窮屈な戒めに心音が高まる。  欲しいものなど、そんなに多くなくていい。  諦めたものは、諦めたものだ。もう手を伸ばさなくていい。 「アゥっ、」  更に奥を求めて腰を打ち付けると肩が跳ねる。背中に爪が立つ。  脳髄が明滅して、視界がぼやける。競り上がってくる。奥を突いたまま片手で一史の屹立の下にあるモノを包んだ。暑さで弛んだそこは柔らかくて中に芯のように丸いしこりがある。 「ふぁ、あっあ、」  開いたままの口から涎が垂れて汗と混じっている。されるがままの体を愛しながら肩口に歯を立てる。声のないまま、一史が絶頂する。背が弓なりに反り、目も口も開いたままでそこだけが搾るように締め付けられる。堪えきれるはずも堪える気もなく中で爆ぜた。放出の度、拍動に合わせて腰が震える。  顔を歪めて下腹部に力が籠る。それがゆるりと抜けるとき、紅潮したまま震える一史の顔を見た。長い絶頂に唇がはくはくと戦慄きながら開閉する。それだけで、中に入れたままの一物が硬くなる。 「あ、まっ、まって、まって……」  ゆるゆると抜き差しすると中で自分の出したものが内壁に絡み付く。何度抱いて何度自分のものを中に塗り込めても足りない。力を込めて抱き締めると、また腰が跳ねる。その勢いに抜け出た一物が後腔の粘膜に滑る。 「ふぁ、あ、」  まだ、絶頂の只中にいる一史の胸に噛みつく。頂にある小さな突起を食い千切ってしまいたい衝動に駆られながら噛んで、舌で甘やかす。 「ンク、」  開いたままの口を唇で塞ぐ。淡く開いた目が晴人を捕らえる。絡む脚が、腕がきつくなる。舌が絡む。深く深く味わうために研ぎ澄まされる。 「……すき、です。好きです。」  くぐもった声は確かに耳に響いた。震える腕が、怯えながら俺を掴もうとする。掴んで、引き寄せようとする。 ―――ちゃんと、出来るじゃないか。  何処かで諦めることを前提としていた一史が、自分の場所を手に入れるために晴人を捕らえようとしていた。  それはまるで、小さな子どもが離れまいと縋るのに似て、ただ、強く抱き返すより他にその喜びを伝える術などない。  首筋に、海のにおい。  開いた窓の向こうに、空がじっと動けずにいた。
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