酷いこと、したい。

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「いってらっしゃーい」  聞こえていないことが判っていながら晴人は呟く。呟きながらYシャツのボタンを留め、青に斜のラインが入ったネクタイを首に掛けた。  何の用もなく、押入れを開く。この2年間に随分物が増えていた。書籍、健康器具、中古で買った扇風機、一史の。  首からネクタイをぶら下げたまま、その箱の上に置かれた私物の書籍を退けた。箱そのものは然程大きくない。通販サイトのロゴが印字されたものだ。両手でそれを掴み、持ち上げる。心なしか、前より重たくなっている気がした。  畳の上にそれを置き、窓を開けて煙草を咥えた。出勤にはまだ余裕があった。  段ボール箱の、斜めに少し開いたあたりを指先で摘んで、開く。初めに見えたのは黒い塩ビの玩具だった。女性に使うというよりは、それは男の直腸の中にある一点を責めるためのものだった。  箱を完全に開くと全部で8つ。最初に目に入ったものと同型のものがもうひとつ。男性自身を象ったものが3つ、それに数珠が繋がったようなものと、楕円形でコードとリモコンがついたもの。男なら使ったことはなくとも用途は安易に想像がつくそれが潤滑剤のボトルと共に収められていた。 「こんなん、どうするんだかな……」  箱を開いたままで晴人は呟き、煙草をピコピコと上下させる。  人の趣味に口出しする気はない。責めるつもりもない。だが、ここにあるこれは、誰が使ったものなのだろう。晴人の居ぬ間に女を連れ込んだのだろうか。 ―――この部屋に?  思い立って背筋を伸ばし、ぐるりと周囲を見回した。狭っ苦しい六畳間だ。片隅には布団が一組畳まれている。晴人のものだ。一史の分はない。住み込むなら買えと言っているのに別に必要ないという。そういうくせに、冬は寒い寒いと晴人の布団に入り込んでくる。 ―――この布団を使って?  腹の奥がむずむずと、気味の悪い虫が大量に沸いた様に気持ち悪くなった。力任せにダンボールを戻し、押入れの襖を閉めた。思っていた以上に滑りの良くなっていた襖がぴしゃりと音を立てた。
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