抱かれ、たい。

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 何もかもを諦めた暗い虚のような目ではなく、煌と光って一史を穿った。その目に穿たれて、息を吐き出した。 「ンむっ、」  瞬間、後頭部に伸びた腕を払う術も由もなかった。引き寄せられるままに食らうような口付けを受ける。さっきよりずっと、乱暴で直情的で息すら奪う激しいものだった。  どこにも行けない者同士、この場で互いを繋ぐしかなかった。気付いてみればそれだけでどんなに過去に喘ごうと、未来に怯えようと、今の感情はそんなことは関係なしに互いを選んでしまった。 「ん、ふあ、ンッ……」  攻められて喘ぐ。ぴったりと唇を合わせられ、酸素が足りなくて角度をずらす。容赦のない力が領を押さえ付けてまた、唇を隙間無く埋められる。その中で、舌が暴れる。口蓋の蛇腹を削る。舌に絡まる。  酸欠に頭がくらくらする。膝が折れる。口付けの角度が変わる。仰ぎながら喉が伸びる。顎を支えられ、指が喉の隆起を撫でると促されて唾液を飲んだ。  頭が白くなる。  瞼が落ちる。キスで目を閉じたことなどなかった。体が弛緩する。領と頤を支える晴人の両手にぶら下がっているような有り様。息が荒くなる。脳髄までかき混ぜるような深いキスに抵抗すら奪われる。抱かれれば、更に依存するだろう。心だけでなくこの身体の隅々まで晴人に沈み、溺れるだろう。  そして、離れられなくなる。 ―――それは、怖いことだ。  判っていながら、一史は晴人の真っ白なシャツの胸に指を立てる。縋り付いて更に思考を奪われたいと乞う。抱かれたいと身を捩ってしまう。
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