奪い、たい。

2/7
2190人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
 脱がせたままのシャツでキスの合間に両手を縛る。布で縛っているせいで大した拘束力はない。ないが、 「言っただろ、容赦しないって」  俺を好きだといった一史は逃れることはできない。ざわざわと一史の肌が粟立ったのがわかった。首筋の細かい産毛が逆立って、かすかに肌をざらつかせている。嫌だといいながら、身を捩って逃げる振りをしながら、快楽に弱いせいか、腹の底では俺を好いているからなのか、身体反応は上々で、晴人を高ぶらせる。縛り付けた手首を右手で押さえつけたまま、自重で一史を押し潰し、さらに逃げ場を奪う。  緊張に深く息を吸い込んだ唇をもう一度覆う。喰らい付いて、少し離して、舌を絡める。互いの舌が露出してくちゃくちゃとはしたない音が室内に満ちる。お互いをかき混ぜるようなカクテルキスに一史の胸の上でささやかな突起が尖っていく。 「っ、はる、とさん……」  腋下を指先でなぞる。焦れた体が右に避ける。(あばら)の横を撫で、ゆっくりと小高くなった胸の頂へ指を辿らせる。シャツ越しに押し付けた自分の心臓が、内側から肋骨を殴るように脈打っているのが判る。 「はるとさん、晴人さん……!」  キスの合間に呼ばれる。身を捩る角度が変わる。自分から胸の尖りを摺り付けるように押さえ込まれた体が背を浮かす。 ーーーエロい、体。  真意なんてわからない。本当は、本当に拒絶したいのかもしれない。あんな手酷い目に合わせたときでさえ、恐怖し、悶絶しながら何度も果てて、絶頂した男だ。体と心理が一致しているとは限らない。 ーーーそれでも、俺を好きだと言った。  惚れた相手が自分の腹の下で悶えていい様に喘ぐなら強引でも手に入れたい。  右手の力が強くなる。手首の圧迫に一史は顔を歪める。その顔に一瞬、怯む。怯んで、手を離しそうになる。緩んだ圧迫に、一史はこちらを見た。重なり合った目の中に不安を見た。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!