奪い、たい。

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 離してはいけないと思ったとき、掌に力がこもった。 「っ……」  一層、一史の顔が歪む。歪んだのに、その唇から吐き出された息は熱く、甘い。 「く、ぅっ」  指先で突起を弾く。腰が跳ね上げたのを、押さえつけ、指先で摘むと、晴人の下で両腿をすらせるのを感じた。リップサウンドの立つような口付けを、ひとつふたつと、唇に、頬に、口角に落とす。一史の匂いが鼻腔を満たす。眩暈がするほど、甘く感じる。  無意識に、口を開いていた。涎がしたりそうになる。汗ばんだ塩い肌が舌に滑らかだ。 「ぃっ!」  加減を間違えた口付けが首筋に痕を残す。  一史の腰が跳ね上がって、晴人の腰に押さえ付けられる。縛り上げたシャツの中で両手を固く握りしめたのを感じた。  丸く、はっきりとついた歯型は照明の元ではっきりとくぼんで見えた。上顎と下顎の前歯を示すように円の外側が赤くなっていく。音の立つような呼吸音が湿っている。 「いいか?」  耳穴に吐息ごと吹き込むと、両腕が緊張し、ふると、身が震えた。隠された首筋を諦めて喉に唇を落とす。唾液に濡れた舌で喉の隆起を擽ると猫のようにぐるぐると音を鳴らす。甘く前歯で噛みつくと、また、震える。 「ぅ、あ」  歯を宛がったままで右の突起を抓る。口の中にある隆起が強張る。強張って弛緩して息を飲む。 「んく、ひ、んっ」  指先で摘んで捩じって引っ張ると、喉の喘ぎが忙しなくなる。きゅっと捩じ上げて爪の先で天辺を細かく引っかく。それに合わせて腰が震える。 「あ、はる、さん、はるとさん、おれ、」  名前の一音を発する度に喉が上下する。その振動が心地よくて苛める様に爪の先を動かす。全身が震える。意味を成さない言葉が一史の唇から溢れる。その合間から、晴人の名前を呼ぶ。 「おれ、俺っも、出た、から、……っ」  苦しいと頭上で泣く。顔を覗き込めば、隠すこともできないまま、ほろほろと眦に向けて水が転がっていく。もっと、泣かせたい。敏感になりすぎて苦しいというのなら、振り切れて馬鹿になってしまえばいい。息が荒くなる。興奮する。触発される。
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