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「すいません、あの娘のこと教えてもらえませんか。」
「構いませんが、どうして?」
「もしかしたら、知っている娘かもしれないので…。」
そう言うと施設長は、別室に通してくれた。
「あの娘は、上條茉里菜と言います。
父親は、誰なのか、どこにいるのかわかりません。
母親と二人で暮らしていたのですが、母親は、育児ノイローゼから、育児放棄をしてしまったんです。保護されたとき、彼女は、痩せ干そって、もう少し遅かったら栄養失調から餓死していたかもしれません。
母親は、精神面で疲弊してしまっていて、とても日常生活が出来る状態ではありませんし、子育てなんて到底無理でした。ですから、保護された後、茉里菜は、ずっとこの施設で生活しています。
見ていただいたように、小さな子供達は、本当の姉のように彼女を慕っています。優しい子なんですよ。」
「…不登校だと仰いましたが。」
「ええ。小学生の間は、まだ学校に通えてたんですがね。何があったのか、私達もわからないんです。別に同級生から虐めを受けていた訳でもないんですよ。
なぜだか、中学に進学してから、休みがちになって…。2年の3学期は、ほとんど行けてない状態なんです。
今年は3年です。この先、高校受験も控えているのに、どうしたものか…。
私達も頭を抱えているんですよ。」
さっきの柔らかな笑顔と、新宿の夜の街で見た泣き顔が、繋がらない…。
「…実は、先日、新宿で彼女から声を掛けられたんです。中学生がうろうろして良い時間じゃなかったので、少しばかりお説教して、帰したんですが…。
その時に、彼女が言った言葉と表情が、ずっと気に掛かっていたんです。
その意味が、理解できました。
あの、里親や養父母になるなら、就学前の幼児が良いとお聞きしてましたが、彼女じゃだめなんでしょうか?」
「えっ?!神谷さん?!」
「ええっ!…ちょっと蓮?!」
施設長と一葉の驚きの声が、重なって部屋に響いていた。
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