自分だけの部屋

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最近、制服に袖を通してなかったなぁ…。 着替えながらそんなことを思っていた。 張りのある艶やかな髪は、ブラシが通ると、もつれている部分が、スルッとほどけて、あっという間に真っ直ぐになる。 本当のことを言えば、あまり行きたくはない。でも、頑張ってみると約束したのは自分だ。 通学用の鞄に、月曜日の時間割を見ながら、必要なものを詰めていく。 用意できた物を持って、階段を下りていくと、いい匂いがする。 「…おはようございます。」 先にテーブルに着いていた蓮に声を掛ける。 あれ…? 蓮が、ネクタイをしているのに気が付いた。 「…あの…お父さん。」 「えっ?…ああ、なんだい?」 いきなり初日から、お父さんと呼ばれるなんて思っていなかった蓮は、一瞬、驚いた顔をした。その後、柔らかい優しい笑顔で答えた。 「…えっと、私…二人に約束したから、学校行きます。」 「そうか。」 「…あの、なんで、ネクタイしてるんですか?」 「茉里菜、君と一緒に、学校へ行くんだよ。学校に、君が引っ越したことや、家の里子になったこと連絡しておかなくちゃならないだろう。一応、これでも保護者になったんだからね。わかったかな。 さあ、冷めないうちに、朝御飯食べなさい。」 テーブルの上には、湯気が立つ温かいご飯とお味噌汁が乗っていた。 「朝御飯、今日はご飯にしたんだけど、パンの方がいい?」 「どっちでもいい。どっちも好きだから。」 「じゃあ、日替わりにしようかな♪」 一葉は、なんだか楽しそうだ。着けていたエプロンを外して、彼女も、テーブルに着くと、いただきましょうと、手を合わせた。 茉里菜も慌てて、手を合わせて『いただきます!』と言って、箸を取った。 茉里菜は、たった3人の食卓だけど、寂しいとか思わなかった。どちらかというと、気持ちがほんわりと暖かくなった感じがする。 ここには、私の居場所がある。私という“個”が、存在してるのを、感じる。 自分の意見が、どんなに小さくても聞いてもらえる。全否定されないことにも、茉里菜は、満足していた。
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