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10時きっかり、扉を開けると、そこに一人の青年がきちんとスーツを着て立っていた。
「…おはようございます。昨日、予約を入れたものですが、もうお店に入れますか?」
「待っていただいてたんですか?申し訳ない。さあ、どうぞ。店を開けますので。」
スーツの青年は、少し緊張した面持ちで、後をついてきた。
商談用のテーブルへ案内して、椅子を勧めてから、ちょっと待ってもらって、珈琲を一葉に頼んだ。
「お待たせしました。それで、今日はどのようなものをご注文ですか。」
「あの…すいません…。実は、昨日、伝え忘れていたのですが、用件が2つあるんです。」
「2つですか?」
「ひとつは、もちろん、オーダーでアクセサリーを作ってもらいたいってことなんですけど。」
「もうひとつは?」
彼は、黙ってポケットから名刺入れを出して、自分の名刺を差し出した。
【(株)藤崎ジュエリー ギャラリー藤崎・渉外担当 藤崎郁哉】
「藤崎ジュエリーの方ですか。なら、アクセサリーは、自社の物がいいのでは?」
「そんな風に言われると思ったから、言いにくかったのに…。」
「ああ、すいません。」
「いいです。僕が最初にちゃんと言わなかったのが悪いんですから。」
そう言って居ずまいを直すと、改めて彼は話始めた。
「僕は、藤崎ジュエリーのギャラリーの方で、渉外担当をしている藤崎郁哉です。」
「藤崎…社長のご子息ですか。」
「はい。…でも、僕は、養子なので血は繋がってませんけど。」
ちょっと寂しげな表情で郁哉は、答えた。
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