傷痕

9/20
前へ
/755ページ
次へ
この数週間、茉里菜と暮らしてみて、一葉は、里親になって良かったと思っていた。 子供を持つ意味を一杯考えさせられた。子供に対して、成さねばならないことは、沢山あった。見せねばならない己の姿に、嘘は許されなかった。 世の中の親と言われる人達は、沢山の経験と心の成長をする。本当なら、こんなものは、もっと若い20代か30代にするものだ。 一葉は、もう60代に足を突っ込んでる。現に、彰なんかは、とっくに経験して、今は、育てた子供の更に子供、孫と向き合っているのだから。 ふふふ。私は、とっても貴重な体験させてもらってるのね。 もし出来るなら…。 一葉は、茉里菜を里子ではなく、養女にしたいと思い始めていた。 そんな6月の最後の日曜日。 「茉里菜ちゃん、暇?」 「予定特にないですけど。」 「じゃあ、ちょっと出掛けるから、一緒に行かないかしら。」 「…あのどこへいくんですか?」 「お友達のところ。あなたを紹介しようと思って。」 「…私をですか。」 「そう。私達夫婦にとって、とっても大事な人達だからね、家族になったあなたをちゃんと紹介しなくちゃって思ってたの。ちょうど、ふたりの結婚記念日だから、お祝い兼ねて。」 「結婚記念日って、お祝いするものなんですか?」 「そうねえ、人それぞれよ。これから会う彰と千秋ちゃんは、毎年してるわね。とは言っても、人を招いてお祝いって言うのは、銀婚式までだったけど。」 「…あの、銀婚式ってなんですか?」 「そっか、茉里菜ちゃんは知らないのね。」 「…はい。」 「結婚した夫婦が、毎年結婚した日に、今年も1年間無事に過ごせたね、次の1年も、仲良く元気に過ごそうねって、確認する日とでも言えばいいかな。 日本ではね、毎年、名前を付けてお祝いをしていたの。 昔は、寿命も短かったから、夫婦が共に長生きするってめでたいことだったのよね。だからかな、25年目の銀婚式と50年目の金婚式は、特に盛大にお祝いするのよ。」 「お母さん達は?」 「金婚式まで、もうちょいかな。結構、早くに結婚したからね。」 一葉は、ニコッと笑った。
/755ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加