傷痕

12/20
前へ
/755ページ
次へ
「いらっしゃい、待ってたのよ。」 千秋は、玄関で、蓮と一葉を迎えた。 「結婚記念日おめでとう、千秋ちゃん。 えっとね、この子、家の里子になった上條茉里菜ちゃん。可愛がってね。」 そう言って、茉里菜の背を、ずいっと前に押し出した。 「きゃあ♪可愛い♪」 千秋は言うなり、茉里菜にハグしてきた。 茉里菜は、自己紹介どころか、声も出せずに固まってしまった。 「千秋さん、悪いけど、腕ほどいてやって。茉里菜、固まってるから。」 「えっ?!…ああ、ごめんなさい。」 「気にしなくていいわよ、千秋ちゃん。 茉里菜ちゃん、びっくりさせてごめんね。私達、会うとよくハグしあってたからね、ついやっちゃうの。 千秋さんは、あなたのこと、気に入ってくれたみたいだから。気を悪くしないでね。」 「は、はい…。」 千秋は、茉里菜に悪いことをしたと、反省しきりだ。 「ごめんなさいね、初対面なのに…。改めて、私は、速水千秋(はやみちあき)といいます。ようこそ、速水家へ。」 「か…上條、茉里菜です。よろしくお願いします!」 「はい、よろしく。…あいさつは、これくらいにして、入ってちょうだいね。 和樹君と郁美ちゃんも呼んでるのよ。」 中へと誘う千秋に、蓮が聞いた。 「和樹、来てるのか。他の面子は?」 「あんまり沢山呼ぶと、光輝に怒られちゃうから、私の方の招待は、和樹君達だけよ。一応、身内だからね。」 「それじゃあ、俺達は?」 「ふたりは、彰の方の招待客よ。 立ち話もなんだし、奥でゆっくり話しましょう。茉里菜ちゃんも、どうぞ。」 茉里菜は、どんどん進んでいく話に、ついていけなくて、わたわたしていた…。
/755ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加