傷痕

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「…お、お母さん。」 茉里菜は、前を行く一葉の服の裾を引っ張った。 「何?」 「このお家、どうなってるんですか?」 「何か気になる?」 「…全部。…全部、気になります。」 「そうよねえ、こんな大きなお家、ビックリするわよね…私も、始めてきたときは、あなたみたいに、おどおど、ビクビクしてたわよ。」 「お母さんもなの。」 「そうよ。初めて来たのは、高校1年の時だったわ。仲良し何人かで、テスト勉強しようってなったの。面子の中で、一番広い家に住んでるのが、彰と綾だったからね。ここになったの。」 「綾さん?」 「しっ!…蓮の前で綾のことは、禁句よ。その内、話してあげるから、ここで、その名前は出さないでね。」 「…禁句ですか。」 「そう。約束よ。」 いきなり、聞いたことのない名前が出てきた上に、蓮の前で出すなと言われたら、とても気になる…。 しかし、今は、口を閉じろと言われたら、そうするしかない。 「こんにちわ、神谷さん。一葉さんも。」 「よう、和樹、元気にしてたか。郁美ちゃんも、体の調子はどうだい?」 「ありがとうございます。最近は、ずっと調子いいんですよ。 あっ、一葉さん。こんにちわ。」 「こんにちわ、和樹君、郁美ちゃん。」 にこやかに挨拶するふたりの影に、茉里菜は、隠れていた。 「あら、その子は誰?」 「家の娘なの。茉里菜ちゃん。」 「えっ?!娘って?!」 「里親やってるんだよ、俺達。」 「なぁ~んだ。神谷さんの隠し子かと思った。」 「そんな訳ないだろう。彰なら、あるかもしれないけど。」 笑いながらそんな冗談を言ってると、キッチンから一人の男性が顔を出して、蓮に文句を言った。 「コラッ!蓮!お前なぁ、言っていいことと悪いことがあるだろうが!いつ、誰が、浮気してんだよ!隠し子なんて居るわきゃねぇだろ!…知らねぇやつが聞いたら、本気にするだろうが!」
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