傷痕

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「…しかし、あの時の話の女の子とはなぁ。蓮とあの子は、縁が繋がっていたんだな。」 「ああ、陽だまり園で、あの子を見たときは、本当にビックリした。 生い立ちやなんかを聞いてね、ここにいたら、ズルズルと悪い方へ流されてしまうって思ったんだ。 別に、園の育て方が悪いって言うんじゃないんだ。先生達は、とても熱心で優しさと厳しさを、ちゃんと持ち合わせているのを感じたからね。 でも、手の掛かる小さな子達が多いから、どうしても大きな手の掛からない子は、後回しになってしまうし、心配りが抜け落ちていくのは、いなめないよ。 そういう隙間に、茉里菜は、挟まって動けなくなっていたんだ。 助けてくれって手を伸ばしていたから、俺は、その手を素直に引っ張ってあげただけだよ。」 蓮は、リビングのラグの上で、速水家のチビさん達をあやしている茉里菜を見ながらそう言った。 「この数週間、一緒に暮らしてみて、あの子は、とても頭のいい、感受性の強い子だってわかったし、なにより自分の立ち位置をよく理解してる。 園の中で、自分はお姉さんなのだからって、溢れそうな気持ちに蓋をして、見ないようにしていたんだろうな。 あの子は、無意識に、自分の気持ちが、波立っている原因に対して、気づかないふりをしている。」 彰は、少し黙ってから口を開いた。 「心が優しすぎるんだ…。」 「彰…。」 「蓮の話を聞いていたら、昔の俺を思い出しちまうよな。」 なぜか、さっまでにこやかだった彰の顔が、曇っていた。
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