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彰には、もう何十年も前のことを、今更どうこう出来る訳がないのだけれど、もう傷はとっくの昔に治っていて、痕も見えないくらい消えてしまっているはずなのに、その場所が、ズキズキと痛む。
それが、心に着いているのだから、困ったものだ。
「…あの頃の俺は、彼女よりも小さかったし、周りは、俺には理解出来ない期待をどんどん積み上げていって、正直、自分が何処をどんな風に歩いているのかさえ、わからなかったからな。
今になれば、あの頃の祖父さんが、ものすごく不器用な愛情の掛け方しか出来ない人だったんだって、わかるけど、子供の俺には、わかるわけないさ。
だからこそ、鈴音の愛情にすがり付いていたのかもしれないし、あいつの愛情しか見えなくなっていたんだ。
鈴音を失って、どん底這い回ったおかげで、見えたものもあるのさ…。
まあ、その点で言えば、彼女は、恵まれてるんじゃないのかな。
蓮が感心するほどに素直に育っているのなら、施設での生活の中で、自分に向けられてる愛情を、ちゃんと感じていたということだろう。
真っ直ぐ向けられた愛情ほど、人を育てる栄養として、優れたものはないからな。
彼女が、曲がらない様に、愛情掛けて育ててやれよ。言っとくが、わかりやすいやつだぞ、蓮。」
「わかってるよ。俺達は子育て一年生だけど、伊達に歳食ってる訳じゃないんだからな。」
「…ならいいよ。なにか困ったことあったら、いつでも力を貸すよ。」
「頼むよ、そのときは。」
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