傷痕

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「…それじゃあ、ご馳走さま。またな。」 「おう、またな。」 お父さんと彰さんが、お別れの挨拶をして、車が走り出した。 「茉里菜、どうだった?」 「…どうって?」 「あはは、漠然とし過ぎだな。悪い、悪い。この家の感想だよ。思い付くまま言ってみて。」 「思い付くままでいいの。」 「いいよ。」 「えっと、ものすごく大きなお家で、ビックリした。それから、本物の作家さんにあってビックリした。 えっと…チビちゃん達、ものすごく可愛かった。私、小さい子大好き♪」 「そうか、大好きか。」 「うん。陽だまり園で小さい子達に、本を読んであげたり、一緒にままごとしてあげたりするの好きだったの。」 「なあ、茉里菜は、大人になったら、どんな仕事をしたい?」 「私が大人になったら…?」 「なれるなれないは、別にして、誰だって、子供の頃は、夢を持ってるものさ。 例えばな、俺は、親父が時計屋をやってたんだ。部品の歯車が回るのを見て、すごく綺麗だって思ったし、動かないやつを小さなドライバー1本で、あっという間に動くようにするのを見て、あんな風に出来る時計職人なりたいって思ってた。 宇宙の話を学校で聞いて、彰と、宇宙飛行士になって、俺達も行こうぜなんて、決意したりな。」 「でも、お父さん、彫金師だよ。時計つくってないし、宇宙飛行士にもなってない。」 「そうだよ。だから、なれるなれないは、別っていっただろう。 俺は、高校生の時に、とても素敵な銀細工とそれを作ってる人に出会ったんだ。それでね、彫金を少し習ってみたんだ。 誰にも手伝ってもらわずに、ひとつ作品を仕上げたときに、ああ、俺が目指すのは、これだって思えたんだ。 元々、時計職人になりたいなんて思ってたんだ。細かい仕事好きなんだな、きっと。」
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