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「…俺は、一葉のことを心から好きだって思っていたから、学校卒業して、一人前になったら、嫁さんにするって約束したんだ。ちゃんと約束は、果たした。
でも、子供がいないってだけで、肩身の狭い思いをさせたのも事実なんだ。
だから、里子とはいえ、茉里菜が家の子になってくれて、本当に嬉しいんだよ。
俺達の願いを、受けてくれてありがとう、茉里菜。」
蓮の笑顔が、茉里菜の心に、ぐっと刺さった。
「…私は、別に、お礼を言われることなんてしてないよ。
…陽だまり園のみんなのこと、好きだけど。あすこに、居たくなかったの。
…なんかね、ここがときどき、苦しかったんだ。
…そんなときに、お父さんが、私を子供にしたいって言ってくれたから。
…私は、本当のお父さんのことは、何にも知らないし、産んでくれたお母さんのことも、もう忘れちゃった。
…だから、新しいお父さんとお母さんが出来るって聞いて、ドキドキしたんだ。
…新しいお父さんとお母さんは、私が思った以上に、素敵な人だって思うんだ。
…蓮さん、一葉さん。私のお父さんとお母さんになってくれて、ありがとう。」
茉里菜の言葉に、一葉は、思わず抱き締めていた。
「こっちこそ、ありがとうだよ、茉里菜ちゃん!
茉里菜ちゃんとなら、私達、本物以上に本物の親子にきっとなれるよ。絶対、なれる!」
茉里菜は、一葉の温かさを感じながら、心の奥に刺さっていた破片が、少しずつ溶けていくような気がした。
…顔も思い出せないお父さんもお母さんも要らない。私には、蓮さんと一葉さんがいる。二人が、私の本当の両親だ。
茉里菜は、ちょっぴりだけ前に進めたと、確信した。
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