郁哉

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藤崎ジュエリーは、現社長の藤崎碧(ふじさきみどり)の曾祖父が創業した小さな貴金属店から、一歩ずつ積み上げて、今や、全国各地に店舗を持ち、海外にも店舗展開をしている宝飾業界では、老舗の有名どころだ。 仕事の面で、碧は、父の後を継いだとは言え評価に値するものだった。海外進出は、彼の手腕だったし、このところ業績が上向きになっているのも、彼の営業方針が、功を奏しているからに他ならない。 そんな彼の今の悩みは、後継ぎだった。 後継ぎとなる子供がいないのだ。小さな個人経営の店なら、自分一代限りでも構わないが、これだけ大きくなると、やはり、自分に何かあったとき、切り盛りしていける人間がいなくては、藤崎家だけでなく、沢山の従業員達の生活面が立ちいかなくなる。 なんとかしなくては…。 そう思う碧は、独身ではなかった。妻もいるし、倫理的にはよくないが、愛人もいる。 だが、妻にも愛人にも、子供がいないのだ。原因は、碧自身の体にあった。だから、妻にも、愛人にも、頭を下げた。藤崎碧の血を引く子供は、諦めてくれと…。 今まで通りの関係でいいと、二人が許してくれても、後継ぎの問題は、どこかで解決しなければならない。 身内の信頼できる誰かを、後継ぎにするか。従業員の中から選んで、創業家の自分達は手を引くか。そんな選択肢を考えていたが、決めかねていたのも事実だ。 そんな時だ、知人のホームパーティーで知り合った大河内に、養護施設の話を聞いたのは。
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