夏休み

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「星と星が出会うのって、奇跡に近いの。ここから見ていたら、すごく近そうに見えるけど、何光年も離れてる。 …光年ってわかる?」 「えっと、確か、光の速さで1年掛かるってことですよね。」 「う~ん、半分当たりかな。光年は、速さじゃなくて、距離の単位だよ。お父さんに教えてもらったんだけど、1光年は、約9.7兆kmなんだって。」 「約9.7兆…う~ん。なんだか想像つかないなぁ。」 「そう、想像つかないくらい離れてるの。あの天の川を挟んでいる織姫と彦星もね。…私と郁哉君は、織姫と彦星と同じ。離れ離れの距離は、余りにも遠くて、何も出来なかったの。 私は、施設で暮らしていたときは、世界一不幸せな女の子だって思ってた。でもね、違ったのよね。 陽だまり園があったからこそ、今、生きていられるの。郁哉君とも出会えたの。それに、みんなと知り合えてこうして笑っていられるのも、元を辿れば、そこに行き着くのよね。」 「茉莉菜さんは、幾つまで、陽だまり園にいたんでしたっけ?」 「中3の始め。それから、ずっと神谷家でお世話になってるの。神谷のお父さん達がいてくれて、高校も大学も通わせてもらえたからこそ、翔琉君に出会えたの。 彼のこと、嫌いじゃないわ。郁哉君と再会しないで、あのまま、ずっと変わらず過ごしていたら、何年後かには、きっと私は、翔琉君のお嫁さんになってたと思う。 …でもね、あの日、失くした記憶を思い出させてくれたのは、彼じゃなく郁哉君で、その記憶の中にいたのは、紛れもなく幼い頃の郁哉君なの。 私の幼い心に芽生えた小さな恋心。初恋なんだとは、気付かないくらい淡い淡い思いは、翔琉君に出会う前から、私がずっと持っていた気持ちよ。それを、否定なんて出来ないし、相手も、同じ想いを持っていることを知って、どうして彼を…郁哉君を拒めるの。」
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