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「僕は、確かに社長の息子ですけど、ちゃんと入社試験を受けてここへ入りましたよ。その時の試験官をしたのは、人事の金山さんです。あの人は、コネとか贔屓とか、大嫌いな人だってみんな知ってるでしょ。」
「そうだな、あの人を金やら付け届けなんかで懐柔出来ないな。ゴリ押しで動かすのも、無理だなぁ。」
「そうでしょ。だから、僕は、社長の息子だってことも、その時、言ってませんよ。だから、あの時、こいつはダメって思われてたら落とされていたかもしれないんですから。
それに、ここに配属されてからのこと、先輩達、みんな知ってるでしょう。僕は、一度だって依怙贔屓なんてされてないし、社長の息子だからって、得したなんてことないじゃないですか。」
「そうだよな、俺達のパシリやらされてたもんな、最初の半年なんて。」
空になったお土産の箱を片付け終わると、郁哉は言った。
「父からは、下から這い上がって来れないようなやつに、後は継がせられないぞって言われました。」
「うわっ、スパルタだな。」
「当然じゃない、社長の立場ならさ。
もしもさ、現場もわからない青二才の若造が、偉そうな顔して上司の席にふんぞり返って、あれやれだのこれやれだの、自分は動かないで、俺達を顎で使ったら、正直ムカつくよ。
その点、藤崎は、自分の立ち位置は、ちゃんとわかってるよ。
どうやって同僚と付き合っていけばいいか、円滑に仕事を進められるか、自分が思い描く仕事を形に出来るかなんてものを、考えてるし、きちんとここで学んでいるんだからさ。
何年かして、一人前に仕事出来るようになったら、自然と、上に上がって行くさ。
俺達は、自分を高めるのと同時に、こいつも磨いてやるのが、先輩としての役目だと思ってるんだがな。」
「蓮見の口から、そんな高尚な言葉が出てくるとは…成長したなぁ。」
「ええっ!ここでそんなこと言います?!」
部屋全体に、笑いが広がった。
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