郁哉

5/11
99人が本棚に入れています
本棚に追加
/755ページ
「…あのね、僕、新しいお父さんとお母さんが出来るんだって。」 施設の片隅にある小さな砂場で、男の子と女の子が、砂遊びをしていた。 男の子の方が、女の子に、そう言った。 「新しいお父さんとお母さん?」 女の子は、小さく小首を傾げて聞き返した。 「うん、そうだよ。僕のお父さんとお母さんは、お星様になっちゃったんだ。だから、会えないんだ。」 「お星様になっちゃったの?」 「うん。先生に、僕のお父さんはどこにいるのって聞いたんだ。そうしたらね、僕のお父さんとお母さんは、お星様になったんだよって。だから、会いに行けないんだよって。」 「いっくんの新しいお父さんとお母さんって、どこから来るのかな?」 「僕は、わかんないよ。」 「そうだ!絶対、いっくんのお星様のお父さんのところから来るんだよ。」 「そうかなぁ。…うん、きっとそうだね。」 いっくんと呼ばれている男の子は、郁哉という名前だった。 彼の両親は、事故で亡くなった。郁哉は、事故の時に唯一、生き残った小さな命だ。 本人は、その時のことを何も覚えていない。記憶を言葉に出来るほど、年齢的に大きくなかったし、もしかしたら、事故のショックなのか、その時の記憶がなかったのだ。 彼のことを引き取って面倒をみてくれるような身内がいなかったために、この施設に保護されている。 郁哉は、とても頭のよい素直な子だった。施設の職員達も、郁哉の成長ぶりに、安心しているほどだ。 そして、今、郁哉を養子にしたいという夫妻が現れた。降って湧いたような良縁に、みんなが喜んだのだった。
/755ページ

最初のコメントを投稿しよう!