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郁哉は、新しいお父さんとお母さんに、興味津々だった。
郁哉から見て、お父さんは、とてもどっしりしていて、安心出来そうな人。お母さんは、優しそうで、甘えさせてくれそうな人だった。
郁哉は、新しい世界を、自分の知らない世界を早く見たかった。体験したかった。だから、二つ返事で、新しい両親を受け入れた。
そして、みんなとサヨナラする日の朝のことだ。
砂場で一緒に、新しいお父さんのことを話していたあの女の子が、見送りにいないことに気がついた。
「先生、まぁちゃんは?」
「…昨日の夜からお熱が出たの。だから、お部屋で、寝ているのよ。」
郁哉は、さよならを彼女に言えないことが、嫌だった。
訴えるような目で、新しいお母さんを見た。
「…あの、先生。郁哉は、その子にお別れを言いたいんだと思うんです。お部屋へ案内してもらえませんか、私もついて行きますから。」
数分後、郁哉は、彼女の部屋の中にいた。
「…まぁちゃん、お熱出たの?大丈夫?」
「…いっくん。…頭、痛いよぅ。」
「僕がおまじないしてあげるから、すぐ頭痛いのなくなるよ。お熱も下がるよ。」
「…うん。」
「あのね、…僕ね、まぁちゃんとサヨナラしなきゃならないの。新しいお父さんとお母さんが、迎えに来たから。」
「…サヨナラするの。…イヤだぁ。」
郁哉の手をグッと握って、イヤイヤと首を振って泣き出した。
「…僕、嫌だよ。まぁちゃんのこと大好きだもん。離れたくないよ。
そうだ!僕、決めたよ!」
郁哉は、何かとても大切な決断をしたようで、その時ばかりは、誰も声を掛けられない雰囲気を纏っていた。
「僕は、大きくなったら、まぁちゃんをお嫁さんにするよ。だから、待ってて。」
「…いっくん。」
「絶対!ぜ~ったいに、迎えに来るから!だから、待ってて!」
「…うん。待ってる。」
それは、小さな小さな約束だった。
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