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「ここが、今日から郁哉が住む家だ。」
郁哉には、そこが、お城に見えるくらいの豪邸だった。
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様。」
「ただいま。…この子が、話していた郁哉だ。世話の方、よろしく頼むぞ。」
「はい、かしこまりました、旦那様。」
そう言って玄関で迎えてくれた女性は、藤崎家のメイドだ。
「郁哉ぼっちゃま、はじめまして。
私は、このお家で、メイドをしている中本雅美と言います。よろしくお願いしますね。」
「ぼっちゃま?メイド?」
郁哉が首を傾げていると、穂波が助け船を出してくれた。
「郁哉、雅美さんはメイドだから、お父さんのことは“旦那様”、私のことは、“奥様”、郁哉のことは、“ぼっちゃま”って呼ぶことに決まってるの。
だから、そう呼ばれたら、ちゃんと、お返事なさいね。
それから、メイドって言うのは、お仕事で、お掃除やお洗濯をしてくれる人なのよ。わかったかしら?」
「うん。わかった。」
「郁哉、違います。『うん。』じゃなくて『はい。』って言わないと駄目ですよ、今度から。」
「…はい。」
郁哉は、怒られたと思ったのか、ちょっと落ち込んで、元気のない返事をした。すると、碧が、そっと頭に手を乗せて、優しく撫でながら言った。
「お母さんの話を、1回で理解したのか。郁哉は、すごいな。」
ニコッと笑ってくれた碧の顔を見て、郁哉は、ホッとした。
「雅美さん、郁哉が家へきたお祝いをするわ。ご馳走の用意をしてちょうだい。」
「かしこまりました、奥様。」
雅美は、恭しく礼をすると、キッチンへ向かって歩いて行った。
「さて、郁哉。お前の部屋へ行こうか。その後は、家の中を探検だ。」
「探検するの?!」
「ああ、するぞ。さぁ、行くぞ、郁哉!」
郁哉は、まだ小さな子供なのだ。その一言だけで、気分がよくなっていた。
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