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…それから10年。郁哉は、16歳。高校1年になっていた。
あの日、藤崎家に引き取られてから、郁哉は、藤崎家の跡取りとなるべく、大切に、時に厳しく育てられてきた。
この春から通っている高校も、資産家や有名人の子弟が通う私立の名門だ。
郁哉は、その中の特進コースに籍を置いて、国立大学への進学を目指していた。
「…郁哉、最近はどうだ?」
「相変わらずですよ、お父さん。僕は、僕に期待されてることを形にするために、努力するだけです。」
「いつも謙虚だな、お前は。少しは、若者らしく親に反発したり、だらけて見せてみろ。」
郁哉がそんなことをする性格ではないと知っていて、碧は、わざと言ってみた。
「…僕だって、人並みに感じてますよ、いろいろ。だらけたい時だって、山ほどあります。」
「なら、そうすればいいんじゃないか?」
「…出来ません。僕は、お父さん達の期待に応えたいし、自分で決めたことを形にしたいから、それに向かって必死に走ってるんです。」
「自分で決めたことか…。なあ、郁哉、お前は、まだ若い。夢とか沢山あるんだろう。父さんに教えてくれよ。」
「…僕は。…僕は、この家に後継ぎとなるために引き取られてきたんですから、そうなれるように努力することが、1番優先されることです。」
それは、郁哉の夢というよりも、義務に近いものだ。
郁哉の答えに、碧は、安心するのと同時に、少しばかり罪悪感を感じていた。
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