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「…穂波、郁哉が好きな女の子知ってるか?」
その夜のことだ。碧は、寝室で、穂波に、そう問いかけた。
「あなた、今、何ておっしゃったの?」
「だから、郁哉が好きな女の子を知ってるかって聞いたんだ。」
「どうして、そんなことお聞きになりたいんですか。」
「あれから10年経った。郁哉も高校生だしな、自分の置かれてる立場とか、将来のことをどう考えているのかを、聞いてみたんだ。
あの年齢だから出来ることが沢山あるだろう。それをしっかり体験出来なければならないと思ってな、同性、異性関係なく友人を作れと言う話をしていたんだ。
その流れでな、恋愛について話を振ったんだよ。そうしたら、心に決めた人がいるから、学校では、恋愛しないって言うんだ。
それでな、ずっと世話をしているお前なら、もしかしたら、知っているのかと思ってな。」
「…心に決めた人ですか。」
穂波は、少し考えた。
「…もしかしたら、あの子、あの時の約束を今も大事に抱えているのかしら?」
「あの時の約束?なんだ、それは?」
「あの子を施設に迎えに行った時、熱があるからって見送りに出て来ない子に、お別れしに行ったでしょ。」
「ああ、そんなことあったなぁ。」
「あの時、郁哉、お別れしたくないってお布団の中で泣いてる子に、大きくなったら、必ず迎えに来るからって言ってたのよ。」
「…もしかして、それ、女の子だったのか?」
「ええ、そうよ。確か…あの子、“まぁちゃん”って呼んでいたわ。」
「じゃあ、郁哉は、その子のことを今も思っているのか。なんて純愛だよ。
だけど、その子が、郁哉との約束を覚えているかどうかわからないし、仮に覚えていても、郁哉を拒絶したらどうするんだろうな…。」
「…それは、その時にならないとわかりませんよ。成就しても、失恋しても、郁哉の人生ですよ。私達は、あの子が困ったときに、受け止めて、相談に乗ってやればいいんです。それまでは、そっとしておいてやりましよう。ねっ。」
「お前が、そう言うなら、そうしよう。」
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