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X'masというのに、茉莉菜は、デートのひとつも出来ないでいた。
「…仕方ないよね。」
郁哉の仕事は、わかりすぎるくらいにわかってはいる。ここ、ミルキー・ウェイも、同じ仕事をしているのだ。
大切な人に贈るアクセサリーを求めて、沢山の人達がやって来ているのを見るたびに、自分の愛しい人は、どうしてるのか気になる。
「ありがとうございました。良いX'masを!」
そう言って何人の人達を見送ったのだろうか…。
「ふぅ…。一段落着いたわね。茉莉菜、今の内にお昼食べてきなさい。タイミング逃したら、食べられなくなるわよ。」
「はぁ~い。」
茉莉菜は、大学が冬休みに入っていたから、忙しいこの時期、率先して店の手伝いに入っていた。
秋口に頑張っていた卒論は提出済み。苦手なピアノの授業もなんとか課題曲を合格できたから、年明けの補講もない。年明けに試験が残っているものを幾つか受けたら、後は卒業を待つのみだ。
卒業が決まれば、本格的な花嫁準備と就職準備で、春を待つ。
お昼を食べて少し休憩していると、蓮が作業の手を止めて、お昼を食べに来た。
「あっ、お父さん。お昼温めるね。」
「ああ、頼むよ。」
こんな風に親子水入らずの時間は、残り少ないんだよね。
「今日のカレー、私が作ったのよ。どう?」
「美味しいよ、腕揚げたんじゃないか。」
「よかった。お料理教室通った甲斐があるって言うよもの。」
「後、半年か…早いな。」
「そうだね。…私ね、これからの半年、一杯、美味しいものを作って、お父さん達に食べさせてあげるね。」
「郁哉君に食べさせるための実験台じゃないだろうな。」
「わざと言ってるのがバレバレだよ、お父さん。実験台になんかしません。ちゃんと、二人の好みの味にしてます。同じカレーなら郁哉君は、もっとスパイシーなのが好きなのよ。彼には、そういうの作るわよ。」
ああ、子供と言うのは、こうやって、親と恋人に区別をつけていくんだな。蓮は、その時、初めて父親の娘への愛情と哀愁を実感した。
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