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「へえ、それで郁哉君と叔父様、ゴルフに出掛けたんだ。」
「そうなの。たまたま、それが今日だったのよね。お母さん一人になっちゃうでしょ。それで、『寂しいから、千秋さんのところに遊びに行ってくるわ。』って、いそいそと出掛けて行ったの。」
「ねえ、ねえ、千秋さんって誰だっけ?」
「美弥ったら物覚え悪いわね。作家の吉水千秋よ。前に、教えてもらったじゃない。ご両親のお友達だって。」
藤崎親子と蓮がゴルフに出掛けることになった日は、たまたま、茉莉菜が真鈴と美弥、3人で、卒業イベントにお泊まりを決めていた日だった。
それで、一人になる一葉は、久しぶりに速水家に遊びに行くことにしたのだ。
「そうだった。でも、すごいよね。ベストセラー作家じゃん。文学に弱い私でも、読んだことあるもんね。有名人が友達って、なんか、格好いい。」
「そう?千秋さんは、素敵な人だけど、普通だよ。」
「茉莉菜、会ったことあるの?」
「うん、何回かね。テレビより実物の方が、もっと美人だけどね。」
「そんなに美人なの?写真弄ってるって噂もあるけど。」
「ずっと出てる情報番組見たことあるでしょ。あのままよ、本人は。
どうやって、あのテレビの画像を加工するのよ…。」
なんて話している内に予約していた、ちょっぴり高級なステーキハウスに着いた。卒業旅行に行く代わりに、都内で贅沢してみようって考えて、計画を練った。まずは、豪勢な夕飯だ。
予約していたことを告げると【RESERVE】と言う札が立てられた席に案内された。
カウンターを挟んで、シェフが目の前で食材を焼いてくれる。
「うわぁ!すごいお肉!」
ジュウジュウとお肉の脂が鉄板に溶け出して、美味しそうな音と匂いを届けてくる。
「いただきます♪♪」
「美味しい♪♪」
「蕩けるねぇ。」
「何、この甘味?」
上質のお肉は、熱々で口の中に旨味を広げ、今まで食べていたのは何?と思わせる程の芳醇な味わいを伝えて来た。ひたすらお肉を食べることに専念した3人は、心から満足した。
ステーキのコースを食べ終えた後、今日泊まる予定のホテルまで、お喋りしながら歩いていった。
「私の我が儘に付き合ってくれてありがとう。だけど、本当によかったの?
どこか、遠出した方が記念になったんじゃないの?」
「何言ってるのよ。こんな風にわちゃわちゃ出来るのは、もうちょっとだけだよ。6月になったら、茉莉菜お嫁さんに行っちゃうんだよ。いくら郁哉君が優しいからって、ホイホイと、遊びになんて出掛けられないでしょ、ご両親の手前。」
「それは、そうだけど。」
「それにさ、今の時期、どこの観光地行っても、私達みたいな学生だらけでしょ。それも、格安ツアーとかで。そんなの当たり前すぎよ。」
「そうそう。東京に住んでても、隅から隅まで知ってる訳じゃないし、改めて東京を知るとかいいじゃない。
今日の泊まりのホテルだって、普通なら泊まれないわよ。さすが、郁哉君よね。あっという間に予約取ってくれたもの。」
「郁哉君って言うより、お義父様のお力よ。郁哉君は頼んでくれただけ。」
「なら、藤崎ジュエリーの力ってところかな。」
「茉莉菜は、すごいところへ嫁に行くんだって、再認識だよ、私は。」
「そんなんじゃないって…。私には、勿体ないくらいだよ。」
「どんなお家でも、郁哉君がいれば、なんとかなるよ。絶対に。ねっ!」
美弥の言葉に、ちょっぴり不安顔になった茉莉菜が笑顔に戻った。
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