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「…ごくろうだったね、郁哉。もう昼だし、一緒に昼飯、食べていかないか?」
郁哉は、穂波のお使いで、碧のいる銀座にある藤崎ジュエリーの本店へ来ていた。
「はい、お父さん。」
郁哉は、18歳になった。学校からは、どこでも好きな私大に推薦を出すと言ってもらえるくらい成績がよかったが、彼は、国立への進学を望んでいた。もちろん、どの大学を受けるにしても、受験生には代わりない。
大学では、経済をきちんと学ぼうと思っている。それは、いつか養父である碧の希望を叶えるために、絶対必要だと思っていたからだ。
後、出来ることなら、聴講で構わないから、理系の講義を受けて、金属や宝石についても勉強したいと思っていた。
社長室のある5階から2階へ下りてきたときだ、何気なくフロアを見ると、人が沢山いる。
「お父さん。ここは、何をしているんですか?」
「ああ、ギャラリーだよ。内の新作発表会をしたり、展示即売会を開いている。
空いているときは、いろいろ企画展示やアクセサリーを作っている職人さんの個展なんかもな。
しかし、今日はえらく盛況だな。なんの企画だったか…。芳谷、今日はなんだ?」
「人気のある彫金師の方の個展です。」
「彫金って、なんですか、お父さん。」
「彫金か。彫金はな、たがねという道具を用いて金属を彫ることやその技術のことを指すんだ。
材料は、プラチナ、金、銀、銅、真鍮、鉄、アルミ、錫などの金属だな。
それらを使って、装飾品や仏具、それから家具なんかの飾り金具などを主に制作するんだよ。
有名なのは、銀細工のアクセサリーだな。幅広い年代から愛されている。」
「…見てきてもいいですか?」
「昼飯行くんじゃなかったのか。食べそこねるぞ、いいのか?」
「だって、今しか見れないでしょ。なら、こっちが優先です、お父さん。」
「ハハハ。仕方ないやつだなぁ。…たまには、私も見てみるかな。」
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