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「うわぁ!綺麗だ!」
藤崎ジュエリーには、ゴールドやシルバーの地金のみを使った指輪などもあったが、それらとは、似ていて非なるものだった。
「彫金に興味がおありですか?」
そこに立っている初老の男性は、とても優しい笑顔でそう聞いてきた。
「あの、僕は、彫金も知らないただの高校生です。でも、こんなに繊細で綺麗な細工のアクセサリー、初めて見ました。」
「そうですか。誉めてくださって、ありがとうございます。」
「あなたが、作った方なんですか?」
「はい。」
「彫金は、何年ぐらいやってらっしゃるんですか?」
「う~ん、そうだね…君の歳くらいからだから、もう50年近いね。」
「そんなに?!」
驚く郁哉に、クスッと笑うと、彫金師の男性は、言った。
「おかげさまで、こんな風に個展なんてものをやらせてもらえるんだけどね。
ここに並んでるのは、売るにしてもかなりの値段を付けなきゃ、割りのあわないものばかりなんだ。
もちろん、リーズナブルなお手頃値段の品物も作ってるけど、藤崎ジュエリーさんで、個展させてもらうのに、そんな陳腐なものは、さすがに持ち込めないだろう。」
言われて付けられてる値段を見て、びっくりする。でも、これがすごく欲しい…。
「…すいません、ちょっと失礼します。」
郁哉は、彫金師に断ると、反対側で、ケースを覗き込んでいるスーツ姿の男性に話しかけた。
数分後、郁哉は、ガラスケースの中に納められていたシルバーのネックレスを手に入れた。
個展の間、展示をしておかなくてはならないので、品物の横に《売約済み》の札が立てられた。
「ありがとう、お父さん。」
「ハハハ。郁哉が、物をねだるなんて珍しいからな。甘い父親の顔をさせてくれたことを感謝するよ。」
そこには、仲睦まじい父子の姿があった。
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