ただの人

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ただの人

 二十歳過ぎればただの人――折に触れて耳にする言葉だけど、私の中ではこのあと続きがある。三十過ぎれば女としての需要がガタ落ちし、四十過ぎれば会社からも煙たがられる。  コンビニで買った缶ビールを呷りながら、私は家路を急いだ。まだ夕方の六時でさほど暗くなっていないのに、さびれた町だからヒールの音が響きまくる。左手には昼でもシャッターが閉まった商店街、右手には初代のび太の家が立ち並んでいる。中には空き家もある。自分のアパートがもうすぐ見えてくる、というところで、前方から風に押されて空き缶が転がってくる。蹴ってくださいと言っているようなものだ。小六の頃、缶蹴りで一番遠くまで飛ばしたことがある私としてはここでスルーするわけにはいかない。幸い履いているのはオリーブ色のチノパン。この小汚い缶を、あえて買ったばかりのエナメルベージュのプラダの靴で蹴とばしてやろう。子供の将来のために学資保険やら英語の英才教育やらにお金をつぎ込み、且つ、家事育児と仕事の両立という生活に追われ、自分の服一着も買えないワーキング・ママには手を出せない代物、プラダ。そういえば彼女は、毎日旦那の     
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