24人が本棚に入れています
本棚に追加
「今からでも修繕すればいいよって、私、言ったんだ。取っ手を自分で作って縫い付けて――お父さんとの関係だって、そうやれば良いじゃんって。そうしたら、お母さん、また泣いて。お父さんには好きな人がいるようだからもう無理だって。悔しい悔しいって泣いてた。だから、私が提案したんだ。じゃあ、もう一度お母さんに惚れさせたらいいじゃんって。二人でタッグを組もうって」
それで、あの白いエプロンを着て、理恵子――おまえは走ってきたんだな。そうだな、すごいインパクトだった。今でも思い浮かべられるぐらい、インパクトが強かった。
「あ、あのね、毎日のお弁当、あれ、私が作ってたんだ。隣でお母さんが指導してくれてたんだ。美味しかったでしょ? これからも私が作ってあげるから」
沙希の目から涙がこぼれた。一緒に作っていた場面を思い出したのかもしれない。楽しそうにキッチンで立っていた二人が頭に浮かんだ。弁当の卵焼きが焦げていたことを思い出す。沙希が作っていたのか、と納得した。
沙希に、慰めの言葉をかけたいのに、何といえばいいのか分からない。まだ理恵子が死んだという実感がないのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!