ほころびをつくろうとき

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 受け取る理由と、受け取らない理由。どちらを考える方が簡単か。――前者のほうがなにかと楽だ。受け取るだけで良いのだから。 「ありがとう」  滑らかに言葉が出てくる。配偶者のペースにはまっているのかもしれない。気を引き締めなくては。記憶の引き出しから、二人にされた胸糞悪い仕打ちを取りだそうとした。が、こういうときに限って思い出せない。代わりに違うことを思い出した。 「失業証明書、早く会社からもらって。扶養の手続きしないといけないから」 「ああ、そうだね。会社に早くしろってせっついておく。じゃあ、いってらっしゃい」  玄関のドアを開けると、眩しい朝の光が入り込んでくる。眩しい。目を閉じる。――いってらっしゃい。普通の声掛けなのに、すごく懐かしく感じた。     
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