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「なんの感情もないよ。給食のおばさんが作ってくれる給食と同じ」
メールのやり取りが面倒になってきた。顔を合わせれば、すぐに終わる会話なのに。
俺は弁当箱と箸を持って、社内にある給湯室に向かった。アットホームな会社だからか、社員全員のコップが棚に入っている。「ご自由にどうぞ」のメモとともに、饅頭の箱が置かれていたりもする。流しで弁当箱を洗っていると、名前を呼ばれた。
「お疲れ様です。お弁当って珍しいですね。山崎部長って外食派ですよね」
美加の声は不機嫌そうだ。いつもはもっと明るいトーンで話すのに。振り返ると、彼女は口をへの字に曲げていた。そういう顔も可愛いなと思う。
「たまには弁当も良いよ。お金もかからないし」
俺がそう言うと、美加の表情が変わった。不満そうな顔から、不安そうなそれに。どんな表情でもこの子は可愛い。二十二才、独身、細身なのに胸の膨らみは制服のベストを持ち上げる勢いがあり、声は若々しく張りがあり遠くまで響く。
声も老ける。聞き取りづらい声になる。四十代の配偶者は、歯茎がやせてサ行を発音すると空気が漏れる。
「心配するなよ。娘の受験が終わるまでだから。あと三か月もない」
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