24人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女のメールはいつも短くて、読むのが楽だ。文末には必ずといっていいほど、絵文字が挿入されている。機嫌のいいときはハートやお日様のマーク、怒っているときは雷や噴火している火山のマーク。今回は黄色いハートだ。美加と付き合うまでは、自分が絵文字を使うようになるとは思いもしなかった。受信したばかりのメールを消し、自宅のドアに向かう。
玄関のドアをあけた途端、鼻の奥を針で刺されたようなむずがゆさを覚えた。おかえり、と遠くで声がした。そのあと、ぱたぱたとスリッパが床を叩く音が響く。耳障りだ。くしゃみが一発出た。
「ごめんね。さっき掃除機をかけたばっかりなのよ。今換気しているから、すぐにくしゃみ、治まるわよ」
エプロンを身につけた配偶者が現れる。エプロン姿なんて新婚時代に見たきりだった。室内から風が吹き抜けた。
「ちょっとね、押入の整理をしていたらいろいろ懐かしいものが出てきて。このエプロンも。そういえばこのエプロン、お義母さんがくれたんだよね。いかにも新妻って感じで恥ずかしくて使ってなかったけど。ちょっとかび臭いから後で洗うよ」
エプロンのフリルをつまみ上げ鼻をくんくんさせる。その仕草がわざとっぽくて鼻についた。たしかに、真っ白のフリフリレースで、年増には似合わない。美加に着せたらエロ可愛くなるかもしれない。
「今日の夕ご飯、たっくんの好きなサバの味噌煮にしたからね」
最初のコメントを投稿しよう!