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家に着いたのは六時半だった。玄関のドアを開けようとして、鍵が掛かっていることに気が付く。珍しい。いつもは鍵が掛かっていないのだ。インターホンを鳴らそうとして、やめる。家に誰もいないのかもしれない。俺は久しぶりに、カバンのポケットから鍵を取り出し、開錠してドアを開けた。
「ただいま」
なぜか控えめな声になってしまう。三和土には、理恵子の靴とサンダルが置いてある。家にはいるようだ。洗面所で手洗いとうがいをして、居間に足を踏み入れる。だが、そこには誰もいなかった。ガランとしたキッチン、静まり返ったソファセットの空間――なにか物足りないと思った。ああ、匂いがないんだ。家に帰ってくると、いつも料理の匂いがした。夕餉の、美味しそうな匂いが。
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