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「こういう風に手を重ねるのって何年ぶりだろうね」
見上げてくる顔が、やけに無邪気に見えた。出会った頃の彼女のようで、違う意味で胸が騒いだ。
「夫婦なんだから、手を重ねるとか――普通のことなのにね」
よいしょ、と掛け声をつけて、理恵子が立ち上がる。手にかかる負荷があまりにも小さい気がした。
「おまえ、痩せたよな。何キロやせた?」
「ちょっとしんどいだけ。大丈夫よ」
俺を素通りして、理恵子は洋服ダンスを開け、着る服を選び始めた。彼女はパジャマ姿だった。この夕方に。
「――理恵子。答えろよ」
久しぶりだ。本当に久しぶりに、俺は彼女の名前を呼んだ。俺に背を向けていた理恵子が、ぱっと振り返った。彼女は笑っていた。
「やっと名前を呼んでくれたね」
瞬きをした瞬間、彼女の目から涙がぼろっと流れ落ちた。
「心配してくれるのも、嬉しい」
ほっそりした両手で、彼女は顔を覆った。
「――意味がわからない。隠していることがあるなら言えよ」
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