ほころびをつくろうとき

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 尋常じゃないペースで痩せるとか、名前を呼んだだけで涙を流すとか、こうやって泣き崩れるとか。ふつうの状態とは思えなかった。理恵子に近づこうとすると、スラックスのポケットに入っていた携帯が振動した。静かな部屋では、その振動音がうるさいほど響く。メールかと思ってやり過ごそうとしたが、いつまでたっても震えは止まらない。この長さは、メールではなく電話の着信だ。 「出たら? いつもの人でしょう? 家の駐車場で、いつもニヤニヤしてメールしてるの、知ってるんだから」  理恵子の表情と声が、急に険しくなった。知っているって? 美加とのことをか? 「私は大丈夫よ。早く電話に出てあげて」  そう言って彼女はまた、洋服ダンスと向き合った。理恵子の背中は、俺を拒絶しているように見えた。  俺は部屋から出て、まだ振動している携帯の通話ボタンを押した。着信はやっぱり美加からだった。 「もしもし」 「なんで? なんで今日、夕飯に誘ってくれなかったんですか。いつもは――」 「ちょっと用事があったから」 「メールもあまりくれなくなったし。なんでですか」  自分の送ったメールの本数なんていちいち覚えていない。着信、送信ともに、すぐにメールは削除しているのだから。 「今、部長の家の近くまで来てるんです。会ってください。近所にロータスっていうコーヒーショップがありますよね? そこで待ってますから。来てくれなかったら、家に行きます」  やけに冷静な声だった。行かなかったら、本当に家まで来てしまいそうな、覚悟を決めたような声だった。行かないとまずい、と直感した。 「ちょっと外に出てくる」     
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