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返事はなかった。
コーヒーショップで美加と三十分ほど話し合い、なんとか彼女を宥めた。メールの本数が、前は一日十通を超えていたのに、今では一日二三通だとか、奥さんの作ったお弁当を毎日美味しそうに食べてましたよね? と怒り露にして捲し立ててきた。度を越えた嫉妬は、可愛いを通り越して鬱陶しい。うんざりする。もしかしたら、彼女とは長く続かないかもしれない――俺は冷静に分析していた。
家に帰り着く。玄関の三和土には、まだ沙希のローファーがない。まだ高校から帰ってきていない。理恵子と二人きりなのが、少し気まずい。でも、あのままじゃお互い気持ちが悪い。話の続きをしなければ、とまた二階に上る。部屋のドアを開ける。
「理恵子」
もう名前を呼ぶのに抵抗はなかった。一度呼んだら、何回呼んでも同じだ。
「――なにやってるんだ?」
理恵子はパジャマのままだった。洋服ダンスから、海外旅行用の大きいトランクに、洋服を移している。
「ああ、たっくん。早かったね。――実はまだ、仕事はやめてなかったんだ、ごめん」
「え」
「休職中なのよ。傷病手当を受けながら」
傷病手当って。
「癌なのよ。肺がん。ステージⅣだから。余命宣告も受けてる」
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