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「だから――もう一度たっくんに好かれて、私が死んだときに泣いてほしかったの! ほんとのことを言うとね、沙希が高校を卒業したら離婚もありだなって思ってた。あなたもそうでしょう? 私たちが一緒にいたってぜんぜん楽しくないし、喜びもないし、意味がないじゃない。でも、自分がいざ死ぬってなったら、あなたに悲しんでもらえないのが悔しくなった。――二十年よ。二十年も一緒にいるのに、つきあい始めた女の子の方が大切になるなんてね。恋なんてそういうものよね、私だって長生きできるんだったら、新しい人探そうなんて思っていたけど。もう時間がないから無理なのよ。出会いを探そうなんて気力もないしね。自分の体のことと沙希の今後のことで頭がいっぱい。沙希には料理とか家事全般できるように今更だけど教えてて――」
声音がいつもとは違っていた。いや、戻ったというべきなのか。関係が冷え切っていたときと同じ声。
「一応、生命保険とがん保険には入ってるから、お金の心配はないからね。私が死んだらあなたにお金が入るけど、沙希のことに使ってほしい。あなたは不倫もしていたし、私に冷たかったんだから」
「――不倫はしてない。好きな子がいるのは認めるけど……肉体関係はいっさいないから」
「でもいつか一緒になろうと思っていたんでしょう? 精神的な裏切りと肉体的な裏切りってどっちが罪深いのかしらね」
理恵子が疲れたようにため息をついた。また咳込み始める。咳の合間に、彼女が声を出す。
「今日は沙希と一緒に寝る。最後だから。あと、ホスピスの場所は教えない。来てほしくない。最期ぐらい、私を不愉快にさせないで」
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