24人が本棚に入れています
本棚に追加
「こうなるまで放っておいたお母さんが悪かったって。こんなの、最初は大したことないホツレだったんだって。面倒で、ずっと見て見ぬふりして、私にバッグを持たせてたって。私、このバッグすごく気に入ってたんだよね。ピアノのレッスン以外でも、学校に持って行って、重い本なんかも入れてたんだ。だから、ある日突然、取っ手がちぎれて、本の入ったバッグがどさっと床に落ちてショックだった。けっこうそのときのことは覚えてたんだ」
「なんで泣くんだ、そんなことで」
「――最初は大したことなかったって言ってた。お父さんと仲が悪くなるのも最初は些細な事だったって。このバッグみたいに、最初は小さいホツレだったんだよって。すぐに糸切り挟でホツレをやっつければ、それでメデタシだったって。そうしないで、ずっと放置してたから、壊れちゃったって」
そうなのかもしれない。最初はなんだったんだろう。理恵子に指摘されて俺がムっとしたのが始まりかもしれない。俺は食事の作法が悪かったし、下品なところがあったもんな。そのたびに、理恵子は控えめに注意をしてきた。俺が意に介さずにいると、どんどん遠慮がなくなっていった。育ちが悪い、と言われたこともあった。他にもいろいろあった。沙希の育て方で対立した。沙希は小学校までよく風邪をひいて熱を出した。そのたびに、どちらが会社を休むかで喧嘩になった。ほとんどは、理恵子に休ませた。家事だってそうだ。年収は俺のほうが上だからと、理恵子にばっかり押し付けていた。なんだよ、俺のほうが悪かったんじゃないか。理恵子はよくやってくれていた。
最初のコメントを投稿しよう!