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それでも残された俺たちは生活していかないといけない。泣きじゃくっている沙希に声をかけて、俺は一人でスーパーに向かった。スーパーで買い物をするのにも、慣れなくちゃいけないのだ。ズボンのポケットから携帯を取り出す。着信はなかった。理恵子が死んでから、美加から一度メールが着た。奥さんと死別したあなたとは、やっていけないと思う。その一文で、俺たちの関係は終わった。関係といえるほどのものはなかったのかもしれない。あんなに可愛いと思っていたのに、彼女に振られてもなにも感じなかった。
「あ、山崎さん」
スーパーの生鮮売り場で魚を物色していると、見覚えのある中年の女が会釈して、こちらに歩み寄ってきた。
「あ――お葬式に」
「ええ。弔問しました。田丸です。あの、このたびは――」
思いつめたような顔で、お悔やみの言葉を言われた。
「理恵子ちゃんとも、ここで会ったなあ。なんか、理恵子ちゃんが死んだってまだ信じられないのよね。この場所でつい最近立ち話をしたんです。理恵子ちゃん、楽しそうに魚を選んでた。本人は肉の方が好きだけど、家族が魚好きだからって言ってたな。サバの味噌煮って最近作ってないからちょっと緊張する、失敗しないコツありますかって聞いてきたり。あれから一か月も経ってないのにね。もうここで会うこともないんだなって思うと――」
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