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沙希の保育園時代のママ友が、涙ぐみながら言葉を押し出している。泣きたいのはこちらのほうだ。そう思った瞬間、熱いものが腹から喉に向かって吹きあがってきた。喉が苦しくて、手で押さえる。目頭が熱くなって、もう止まらなかった。人前で泣き崩れるなんて、今まで一度も経験したことがない。葬式のときだって、涙は出なかった。隣に立っている田丸さんの声が、聞こえる。でも、なにを言っているのかわからない。その声はどんどん遠のいていく。
今になってなんで、堰き止めていたものが流れてくるんだろうな。公衆の面前で大の男が泣いている。わき目もふらずに、しゃがみ込んで、顔を両手で覆って、泣いているんだ。
――理恵子、満足か?
了
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