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ひとりになって、食卓が静かになる。いつもの我が家が戻ってきて、俺はほっとした。
翌朝になっても、我が家の異変は続いていた。俺が起きて居間に向かうと、ふたりはキッチンで仲良くおしゃべりをしていた。卵焼きの甘い匂いと、ケチャップの焦げた臭いがする。
「おはよう」
俺に気が付いた二人が、同時に挨拶してくる。反射的に口を開くが、やっぱり声が出てこない。痰が絡んでいるのに気が付き、俺は洗面所に向かった。ティッシュをとって適当に畳み、それに向かって吐き出す。排水溝に痰を吐くのは、ずいぶん前にやめた。寝室を配偶者と別にする少し前だ。洗面所を横切った二人に現場を見られた。勢いよく痰を飛ばしたら、思い切り罵倒された。配偶者は道ばたの嘔吐物を踏んでしまったような顔をした。人間以下のものをみる目だった。
――あなたのねえ、そういう品のない仕草が吐き気を催すほど嫌いなの。何度注意しても直らないし。沙希が真似をしたらどうするのよ。
――安心して、お母さん。絶対こんな汚いことしないから。
たしかに下品な行動だったかもしれない。でも、注意するにも言い方ってものがあるだろう?
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