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髪の毛や食べかすが溜まった排水溝の網に、黄色い濃厚な痰が絡みついていた。水を流してもなかなか取れない。仕方なく指で網を摘み、掃除用の歯ブラシでごしごしと擦った。その一部始終を、呆れたように、気持ち悪そうに二人は見ていた。
あのときのことを思い出すと、胸糞悪くなる。どんなに今優しくされても、根に持つ過去がある限り、仲良くなんてできない。沙希のことは可愛いと思っている。だけど、離婚したあと引き取りたいとは思わない。あいつだって母親とふたりで暮らした方が楽しいだろう。
洗顔とうがいと髭剃りを終えて俺が食卓に向かうと、テーブルには朝食が並べられていた。バターが溶けてしみ込んだトーストと、ベーコンエッグと生野菜のサラダ、そしてブラックコーヒー。ベーコンの焦げた匂いに食欲を刺激された。いつもは、こんなに美味しそうな朝食は出てこない。袋に入った食パン、ジャムかバターが箱ごと放置され、飲み物の用意はされていないのが常だった。昨日の朝食と今日の朝食には、雲泥の差があった。なにかのフラグが立っているんだろうか。たとえば、離婚を切り出す前に良い妻を演じて自分の立場を有利にしたいとか? もしかして、俺の浮気(肉体関係はないけど)に気が付いて、水面下で証拠を握ろうとして、俺を油断させようとか? 優しくされても素直に喜べない。疑心暗鬼になるだけだ。
「突っ立ってないで座ったら? お弁当作ったからね。持って行って。がんばったのよ!」
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